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ナノディップコーターND-0407-S3 を利用したシリコン基板上への化学溶液コーティングと 基板引き上げ条件の影響

上智大学 理工学部物質生命理工学科
内田 寛

1. 研究背景

有機金属化合物を原料とした化学溶液のコーティングによる薄膜作製手法は、複雑かつ大面積を 有する基板構造体上に無機材料薄膜を簡便に作製することが可能な、工業的にも大変有用性の高い 手法である。ディップコーターを用いた溶液コーティングでは溶液の粘性や加水分解挙動のみなら ず、実験装置側の機器構成がコーティング薄膜の状態に及ぼす影響も大きく、所望の薄膜を効率的 に得るためにはそれらの条件を精密に制御する必要がある。本報告では引き上げ速度および角度を 精密に制御することが可能なナノディップコーターを利用し、さまざまな基板引き上げ条件下での 薄膜堆積実験を検証した。

2. 実験方法

本実験では酸化チタン TiO2 薄膜の作製で頻繁に利用されるチタンテトラ n-ブトキシドモノマー /2-メトキシエタノール溶液(濃度 0.1 mol/dm3)をコーティング用の化学溶液として利用し、これ を片面鏡面研磨した Si ウェハーにディップコートした。実験操作にはナノディップコーター (ND-0407-S3, 株式会社 SDI)を使用し、種々の引き上げ速度 (v) および角度 (θ) による基板引き 上げを試みた。基板引き上げ操作の概要および引き上げ条件を図 1 および表 1 にそれぞれ示す。基 板上にコーティングされた前駆体薄膜を熱処理(500°C, 5 min, 空気中)することにより堆積条件の 異なる結晶質 TiO2 薄膜を最終的に得ることができた。薄膜堆積条件の評価は研磨表面の堆積物を光 学顕微鏡ならびに電子顕微鏡により観察することで実施した。 図 1.基板引き上げ操作の概要 表 1 基板引き上げ条件

3. 結果および考察

(1) 基板引き上げ速度の影響
前述の化学溶液を異なる引き上げ速度で Si ウェハー上にディップコーティングした際の薄膜堆積挙動を検討した(試料 No.1~3)。 基板表面に形成された堆積物の光学顕微鏡写真を図 2 に示す。引き上げ速度 100.00 μm/s で作製した薄膜試料(No.1)では基板表面にほとんど堆積物が認められなかった一方、基板引き上げ速度 10.00 および 1.00 μm/s で作製した薄膜試料(No.2 および 3)では光沢を有した薄茶色および紺色の 堆積物の形成が確認された。また、わずかではあるが浮遊塵などに由来する微粒物質の数量が基板 堆積速度を低下させることにより増大した。
堆積物/基板の断面構造を撮影した電子顕微鏡写真を図 3 に示す。基板引き上げ速度 10.0 μm/s で 作製した薄膜試料(No.2)では膜厚約 20 nm、1.00 μm/s で作製した薄膜試料(No.3)では膜厚約 60 nm の平板状堆積物がそれぞれ確認された。基板引き上げ速度 100.00 μm/s で作製した薄膜試料 (No.1)では堆積物の存在はほとんど認められなかった。これらの結果はディップコーティング時 の基板引き上げ速度の向上と共にコーティング膜厚が増大するとした従来の報告[1]とは異なる結 果であった。その原因として、本実験で使用した化学溶液の粘性が比較的に低いことや引き上げ速 度の遅いコーティングでは基板-溶液界面における原料の加水分解が十分に進行することなどが 予想できるが、現状では確証を得るまでには至っていない。光学顕微鏡写真で観察された堆積物の 図 2 異なる基板引き上げ速度で作製された薄膜試料表面の光学顕微鏡写真 図 3 異なる基板引き上げ速度で作製された薄膜試料断面の電子顕微鏡写真 色彩変化は、膜厚の増減により薄膜の表面反射光と界面反射光(薄膜/基板)の間での光波の干渉状 態が変化したために生じた現象であると推察される。
(2) 基板引き上げ角度の影響
続いて異なる基板引き上げ角度で Si ウェハー上に化学溶液をディップコーティングした際の薄膜堆積挙動を検討した(試料 No.3~6)。基板引き上げ速度は前項にて最も大きな膜厚の得られた 100.00 μm/s に固定した。
基板表面に形成された堆積物の光学顕微鏡写真を図 4 に示す。引き上げ角度 0o で作製した薄膜試 料(No.3)では青色の堆積物が確認されたこと(図 2)に対し、引き上げ角度 5o で作製した試料(No.4) では薄茶色の堆積物の形成が観察された。さらに引き上げ角度を大きくするにつれて堆積物の色彩 は薄くなり、引き上げ角度 30o(No.6)ではほとんど堆積物の存在は確認できなかった。また基板 引き上げ角度を増大させることにより微粒物質の数量が減少した。
これらの薄膜試料において撮影した堆積物/基板断面構造の電子顕微鏡写真を図 5 に示す。基板引 き上げ角度 5o で作製した試料(No.4)では膜厚約 15 nm、引き上げ角度 5o で作製した薄膜試料(No.5) では膜厚約 10 nm の堆積物がそれぞれ確認された。基板引き上げ角度 30o で作製した薄膜試料(No.6) では堆積物の存在はほとんど認められなかった。 図 4 異なる基板引き上げ角度で作製された薄膜試料表面の光学顕微鏡写真 図 5 異なる基板引き上げ角度で作製された薄膜試料断面の電子顕微鏡写真 基板引き上げ角度を変化させることによりディップコー ティング時の基板表面での溶液接触状態を変化させること が可能であり、本実験ではそれらの影響がコーティング膜 の膜厚に反映されたと予想する。すなわち、基板(固相)と溶 液(液相)の接触界面には凹型メニスカスの曲面が発生する が、基板引き上げ角度を 0o から増大させることにより溶液 -基板間の接触角(ψ)が減少し[2]、その結果としてコーティ ング時に基板表面に形成される液膜の厚さが減少したもの と推察される(図6)。同様の現象は、溶液濃度の調整など、 液体粘性を変化させた場合にも発生するものと推察する。 引き上げ操作時の基板(固相)

4. まとめ

ナノディップコーターを利用して TiO2 コーティング用化 学溶液をさまざまな基板引き上げ条件下で Si ウェハー基板 上に塗布することで薄膜試料を作製した。その結果、引き上げ速度および角度に応じて基板上に形 成される堆積物の状態が大きく変化することを本実験で確認した。基板引き上げ条件に係る各種パ ラメーターは基板(固相)および溶液(液相)の接触状態と密接に関連する因子であるため、これらを 更に制御することによって精密かつ多様な薄膜堆積を実現できるものと期待される。

※ 参照文献:
[1] M. Guglielmi et al., J. Mater. Sci., 27, 5052 (1992). 他多数
[2] “Principles of Colloid and Surface Chemistry, 3rd Edition”, eds. P.C. Hiemenz and R. Rajagopalan (Marcel Dekker, New York, 1997) p.251.
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