TECH COLUMN

【技術コラム】「引き上げ速度」と「膜厚」の物理学

なぜ、速度を変えるだけでnm単位の膜厚制御ができるのか?

ディップコーティングの原理は非常にシンプルです。「液に浸して、引き上げる」。

しかし、そのシンプルさの裏側には、流体力学に基づいた厳密な物理法則が働いています。

R&Dの現場において、狙った膜厚(例えば100nmや5μm)を正確に出すために、なぜ「引き上げ速度(Withdrawal Speed)」の制御が最も重要なのか。そして、なぜ一般的なモーターではそれが実現できないのかを解説します。

1. 膜厚を決める方程式「ランダウ・レビッチの法則」

ディップコーティングにおける膜厚($h$)は、一般的に以下の理論式(ランダウ・レビッチの式)で近似されます。

$$h = 0.94 \cdot \frac{(\eta \cdot v)^{2/3}}{\gamma^{1/6} \cdot (\rho \cdot g)^{1/2}}$$

少し複雑に見えますが、変数を整理すると非常に単純な関係が見えてきます。

液の種類(粘度や密度)が決まっている場合、膜厚 $h$ は 「速度 $v$ の2/3乗」に比例します。つまり、以下の原則が成り立ちます。

この物理法則を利用すれば、塗料の配合を変えることなく、「速度」というパラメータを調整するだけで、数nm(ナノメートル)から数十μm(マイクロメートル)まで、自由自在に膜厚をコントロールできるのです1。

2. 理論通りにいかない理由:「振動」という大敵

「速度を一定にすれば、膜厚も一定になる」。理論上はそうです。

しかし、実際に市販のロボットシリンダーや簡易的なモーターでディップコートを行うと、多くの技術者が「膜厚ムラ(縞模様)」に直面します。

その最大の原因は、「微細な速度変動(振動)」です。

引き上げ速度 $v$ が一瞬でも変動すると、上記の式に従い、その瞬間の膜厚 $h$ も変動します。これが、乾燥後に肉眼でも見える「横段ムラ(ボーダー模様)」として現れてしまうのです。

3. SDIが実現する「超低速・無振動制御」

株式会社SDIのディップコーターが、大学の研究室だけでなく、厳しい品質基準を持つ光学・電子部品メーカーで採用される理由。それは、この「速度の質」にあります。

① ナノオーダーを可能にする「超低速域」

SDIの装置は、他社製装置では停止してしまうような超低速(例:1nm/sec~、1μm/sec~、0.01mm/sec~)でも、極めてスムーズに動作します。

これにより、フッ素系コート剤やゾルゲル液などの低粘度液を用いても、数nmレベルの極薄膜を均一に形成することが可能です。

② 振動を排除する「高剛性設計」

「ナノレベルの膜厚制御」には、ミクロンレベルの振動も許されません。

SDIでは、特殊な駆動方式と、独自設計の高剛性スライダー(リニアガイド)を採用。液面に対するワークの揺れを物理的に排除し、まるで「静止しているかのような滑らかさ」で引き上げます。これにより、理論限界に近い均一性を実現しています。

③ 複雑形状に追従する「可変速プログラミング」

さらにSDIの特長として、「引き上げ途中で速度を変える」ことが可能です。

例えば、3D形状のワークにおいて、液だれしやすい部分はゆっくり、平面部は速く、といったプログラムを組むことで、形状由来の膜厚ムラまで補正することができます。

結論:装置選びは「速度制御の精度」で決まる

ディップコーティングで失敗しないためには、「最高速度」ではなく「最低速度の安定性」と「無振動性」に着目する必要があります。

SDIは、1000台を超える導入実績から導き出された「振動制御技術」で、あなたの実験の再現性を保証します。

狙った膜厚が出ない、縞模様が消えないとお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。